Carry the Ocean by Heidi Cullinan
- Carry the Ocean (The Roosevelt)
- 著者:Heidi Cullinan
- 出版社:Samhain Publishing, Ltd.
- 発売日:2015-04-07
- カテゴリー:Kindle本
Heidi Cullinan著”Carry The Ocean"。彼女は好きな作家だが、この本は紹介を読んでなかなか手を出せずにいた。
重いうつと不安障害のためハイスクールを卒業しても引きこもっているジェレミーは母親に無理やり連れだされたブロックパーティ(近所の人の集まり)でエメットと出会う。自閉症スペクトラムで数学・プログラミングに天才的な能力を発揮するエメットは線路の向こう側の家でさびしそうにしているジェレミーにずっと恋をしていた。対人能力に問題があるのを自覚しているエメットはジェレミーの「ボーイフレンド」になれるようフラッシュカードや会話シミュレーションを積み重ねてきた。ジェレミーはエメットの率直さにひかれ、2人は付き合うようになるが障害を抱えながらの関係は平たんなものではなく…。
誰かの「障害」を娯楽のために用いるのはなんだかなぁ、という感じがぬぐえなくて障害があるキャラのMMにはなかなか手がでません。この本は真正面から障害を持っている男子の関係を扱っているのでなおさら。でもポチってしまったのは熱帯夜のせいにしておきましょう。
結果は◎。自閉症スペクトラムについてもうつ病についてもきちんと調べてあって(わたしがわかる範囲で、ですが)決してロマンチックなものに誤魔化していません。エメットもジェレミーも自分らしく生きたいと願いつつ、「ふつう」になることへの憧れや「ふつうになれない」ことの痛みを自覚しています。2人を通じてまわりの人たちが変わっていく姿も丁寧に描かれています。(欲をいえばジェレミーと母親の和解はちょっと簡単すぎるかな…)
MMだしセックス描写があるので誰にでも勧められるわけではありませんが、YAものとして秀作だと思いました。特に二人を見守る精神科医Dr.ノースにじんわりします。(映画「パッチ・ウィリアムス」のロビン・ウィリアムスを思い出し、彼にもDr.ノースがいたならなぁと切なくなりました。)
タイトルの「Carry the Ocean」は「うつ病ってどんな感じ?」とエメットに聞かれたジェフリーが「まるで海を運んでいるようだ」と生きる辛さについて語るシーンに出てくる言葉です。ずっと海を運びつづけなければいけないけれど、もう1人ではない。休み休みでもいいし、助けを求められる人がそばにいる。日頃、当たり前に思っているいろいろなことのありがたさを感じました。